私は昭和43年4月に群馬大学医学部に入学しました。翌44年1月に東京大学安田講堂に機動隊が導入され、学生による封鎖が解除されるという事件がありました。以後、学園紛争は全国の大学に広がり、群馬大学も例外ではなく、同年1月、私が学んでいた群馬大学教養部と教育学部も学生大会でストライキを決議して学園を封鎖しピケを張りました。しかし6月に機動隊が導入され、授業が再開されました。紛争中、学園は新左翼系のノンセクトラディカルと民主青年同盟とが対峙していました。私は両者の強力な闘争理論に勝てるわけがなく、かといって彼らに付いていくだけの勇気がなく、どうしてよいか分かりませんでした。紛争に対してなんら解決の意見を持てないという自己嫌悪の中で、ただ人の意見に左右されながら生きるのはいやだ、私はかく生きると宣言できる揺るがされることのない確かなものが欲しいと思うようになりました。複数の宗教団体を渡り歩きました。入学して3年目のとき、クリスチャン学生の同好会である聖書研究会が主催する講演会に出席しました。講師は当時、国立水戸病院耳鼻科医長をされていた宇佐神正海先生で、それを機に彼らと交わるようになりました。その聖書研究会の顧問である内分泌研究所形態部の黒住一昌教授に誘われてプロテスタントのキリスト教会に行き、そこで信仰の決心をしました。こうして私の心の遍歴は終わりました。

　信仰を持ってから物の見方が変わりました。医学を学ぶ中で人体の精巧さに驚嘆するようになりました。ある日、図書館で書き物をしているとき、よく動いている右手を見ました。私が思うとおりに右手は動き、かゆい背中にも届いて掻いてくれます。なんと忠実なしもべだろう。これは私が作ったのではない。物心ついたとき、すでに私に備えられていた。右手に限らず、私の体はそのようなもので満ちている。そう知って、神のお心配りに深い感慨を覚えました。 　

　信仰を持ってから一層自分の罪を深く自覚するようになりました。私はよく祈りました。自分の愚かさ、いい加減さのゆえに、それから起こる結末を恐れて、「神様、助けてください。」と、様々の場面で祈ったのです。不思議なほど私の祈りは答えられて、その危機を脱することができました。しかし私は「ああ、良かった。」と思うだけで、感謝の気持ちは湧いて来ず、その恵みを忘れてしまうのでした。こんなことを繰り返していくうちに、私は、自分自身に幻滅するようになりました。私は何という恩知らずな人間だろうか。神様によって幾度となく助けられたのに、何の感謝もせず、のどもと過ぎれば熱さを忘れるを地で行くように、「ああ、良かった。」で終わりにしてしまう。神様に、すべて自分の至らなさの結末を尻ぬぐいさせている。私が神様のしもべなのに、神様をしもべとして使っている。自分だけ良ければよいという、どうしようもない罪びとであることを覚えたのです。

　さらに聖書ピリピ人への手紙２章３節に「何事でも自己中心や虚栄からすることなく、へりくだって、互いに人を自分よりすぐれた者を思いなさい。」と書かれてあります。ある日、私はこの言葉を教会で実践しようと思いました。しかし、人と会話するとき、人を自分よりすぐれた者と思うどころではありませんでした。私がその人よりも優越していなければ気がすまないという思いが湧き上がりました。このことを悔い改めて、また人と会話すると、同じように、その人より優越していなければ気が済まないという思いが沸き上がってきたのです。分刻み、秒刻みで悔い改めを繰り返しても、この思いは私の心を占拠しておりました。これに私は打ちのめされました。傲慢という、心に居座った罪に私は無力でした。人はイエス様の教えを守ることはできない、ただイエス様にゆだねるとき、それを可能にしてくださると、後で悟りました。

　振り返ってみますと、よく今まで信仰を持ち続けることができたなと驚きます。一般的なこの世の考えでは、もし世の成功や欲得の成就のために生きようとするなら、信仰は邪魔です。教会生活、献金、奉仕などに時間と労力を費やすのはばかげています。世の中を賢く、要領よく生きて、財産、名誉、地位を築き上げていけば良いと思うなら、聖書の正義にとらわれ、それに手かせ足かせをはめられていることは知恵がない、愚かだと、世の中の人は思っています。クリスチャンであるより、多数派のノンクリスチャンであるほうが、世によく適応できますし、安心です。しかし私はこの世の生き方に戻ることなく、信仰を続けて参りました。なぜかとよく考えてみますのに、心の奥底にイエス様が唯一の本当の希望であるという思いが消えなかったからだと思います。実際、イエス様に信頼し、すがりながら、様々な問題を乗り切ってきました。特に堕落することなく、自暴自棄に陥ることなく人生を歩むことができたのは、イエス様の忠告と矯正のおかげであると、心から感謝の思いでいっぱいになります。そしてイエス様が唯一の本当の希望であるというこの思いが消えなかったのは、聖書にかかれてあるように、イエス様が私に送ってくださった聖霊が、私の内に住んでいるからに違いないと思っています。毎日の生活の中で、自分の思い、言葉、行動において罪を犯すことを幾度となく覚えさせられますが、イエス様がそのような私のために十字架で死んで、よみがえってくださったことを思い起こし、罪赦されたことを実感し、悔い改めて、日々新たにされて前進しております。 学生のときに得た人生の確かな土台は今も変わっていません。これからも変わることはないと思っております。

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